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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)1号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

成立に争いのない甲第三号証によると、引用例には、抗体としてγ―グロブリン(IgG抗体)を使用し菌体としてブドウ球菌(込宮株)を使用し、この菌体粒子にγ―グロブリンを結合させた診断試薬の製造方法が記載されており、この診断試薬が関節リウマチの検査に用いられることが認められる。一方、成立に争いのない甲第一四号証によれば、リウマチ因子が抗体(IgG抗体)のFc部分と特異的に結合するものであることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実に基づいて考えると、原告主張のとおり、引用例の診断試薬における菌体粒子と抗体であるγ―グロブリンとの結合は、Fc部分を介してではなく、Fab部分を介して行われているものであることが明らかであり、被告もこのことを敢えて争つていない。従つて、この点に関する審決の認定は誤りといわなければならない。

そうとすると、右の誤認を前提として本願発明は引用例に記載の技術事項と同等であつて特許法二九条一項三号により特許を受けることができないとした審決の結論が誤りであることは明らかであり、審決は違法として取消を免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註〕 当事者の主張は左のとおりである。

請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告は、一九七二年一一月六日及び一九七三年二月八日にスウエーデン国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四八年一一月五日、名称を「試料中の抗原を測定する方法」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和四八年特許願第一二四三三六号)が、昭和五七年三月四日に拒絶査定を受けたので、同年七月二〇日、これに対し審判の請求をした。特許庁は、同請求を同年審判第一四五五六号事件として審理した上、昭和五九年九月五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として九〇日を附加)との審決をし、その謄本は、同年九月一八日、原告に送達された。

二 本願発明の特許請求の範囲

液体の存在下における抗原とその抗原に特異的なそして反応が実施される液体中には不溶性の微細粒子表面に結合された抗体との間の、試料中の抗体の存在を示す凝集を導くような免疫反応によつて試料中の一種またはそれ以上の抗原を測定するための方法であつて、前記微細粒子として細菌菌体が使用されること、そして抗体がそのFc部分を介して(a)前記細菌から導かれ、(b)抗体のFc部分と結合可能であり且つ(c)ポリペプチドと細菌菌体との間の天然の結合によつておよび/または人為的結合によつて細菌菌体に結合されているポリペプチドに特異的に結合されていることを特徴とする、抗原の測定方法。(なお、右の「試料中の抗体」は「試料中の抗原」の誤記である。)

三 審決の理由の要点

1 本願発明の要旨は、前項の特許請求の範囲に記載されたとおりである。

本願発明は、要するに、液体試料中の抗原に対して反応する抗体であつて、該液体に不溶性の微細粒子表面に結合したもので免疫学的に前記抗原を測定する方法と解されるところ、このような方法は本願出願時周知のことである。そうすると、本願明細書の記載にも徴して検討するに、本願発明の骨子は、右周知方法において使用される抗体が微細粒子表面に結合されてなるものについて、(1)微細粒子が細菌菌体であり、(2)抗体は、該菌体のポリペプチドに、そのFc部分を介して特異的に結合されてなるものとすることにあると認められる。

そして、本願明細書の実施例(例一)によれば、右(1)の事項は、具体的には、ブドウ球菌菌体であり、右(2)の事項は、具体的には、ブドウ球菌培養→洗浄(生理的食塩水使用)→スラリ化(リン酸塩緩衝食塩中のホルムアルデヒド水溶液使用)→分離→洗浄→遠心分離→アジ化ナトリウムを含有する生理的食塩水添加……菌体表面にタンパク質Aが生成し、菌体はこれによりその表面が覆われた状態を呈する……一〇%懸濁液→加温(八〇度C)→冷却→遠心分離→スラリ化→抗血清添加→洗浄(緩衝液使用)→スラリ化、という内容のものであると認められる。

2 これに対して、特公昭四三―一一二八五号公報(以下、「引用例」という。)には、ブドウ球菌等の細菌菌体粒子を用いた診断試薬であつて、菌体のみの凝集性を除去し、目的とする反応以外のいわゆる非特異的な反応を除去し、目的とする任意の抗原性物質を結合させてなるものが記載されている。その製法の具体例は、ブドウ球菌培養→菌体の表面に付着している培地成分その他酵素等の結合物除去(生理的食塩水使用、遠心分離操作等による。)→沈渣に中性洗剤を加え一万倍に薄めた生理的食塩水で浮遊→振とう→遠心分離→洗浄(生理的食塩水を使用して中性洗剤を完全に除く。)→リン酸緩衝液(pH七)で浮遊→ホルマリン添加(一%濃度にする。)→フラン器内放置(三七度C)→透過率調整→抗血清添加処理、という内容のものである。

3 そこで、本願発明を引用例に記載の技術事項と対比検討する。

動物のIgG抗体が、そのFc部分を介してブドウ球菌の細胞壁構成分のプロテインAに結合することが見出されていて、これを免疫学的分析に利用することは、本願出願時周知である。そして、引用例にあつては、抗体としてγ―グロブリンが使用されていて、これは正に前記IgG抗体に相当するものであり、かつまた、菌体としてブドウ球菌が使用されているところ、引用例にあつて、菌体粒子への抗原性物質の結合は、いわずもがな、ブドウ球菌のプロテインAにγ―グロブリンのFc部分を介して行つているものと認められる。そうすると、引用例においては、目的の菌体粒子―抗体の試薬は、要するに、ブドウ球菌を培養し、得られる培養菌体について、その表面に付着している不要物質すなわち培地成分、酵素等の結合物を除いて純化し、菌体の細胞壁構成分たるプロテインAが、抗体と、該抗体のFc部分を介して結合し易い状態にし、そこに抗体を結合せしめているものと認められる。

一方、本願発明については、ポリペプチドとされているところは、本願明細書の記載に徴するに、タンパク質AすなわちプロテインAを意味していることから、本願発明の免疫学的に抗原を測定する方法に用いるための試薬が、具体的には、前記実施例のような一連の操作を介して得られるものではあるものの、細菌菌体の細胞壁構成分たるプロテインAに抗体をそのFc部分を介して結合せしめるものに他ならない。

4 してみると、本願発明は引用例に記載の技術事項と同等であつて、特許法二九条一項三号により特許を受けることができない。

四 審決を取り消すべき事由

1 審決の理由の要点1、2は認める。同3のうち本願発明についての認定は認めるが、その余は否認する。同4は争う。

2 審決は、引用例において菌体粒子と抗体の結合はブドウ球菌のプロテインAにγ―グロブリンのFc部分を介して行つているものと認定しているが誤りである。引用例の診断試薬は菌体粒子が抗体であるγーグロブリン(IgG抗体)のFab部分を介して結合しているものである。

このことは、右診断試薬はリウマチ因子の診断に用いられているところ、リウマチ因子は抗体のFc部分と特異的に結合するものであるから、菌体粒子と抗体とは抗体のFc部分が菌体粒子から外側を向いて遊離した状態になるように結合しなければならず、したがつて、抗体はそのFab部分を介して菌体粒子に結合していると解されることから明らかである。

3 審決は、右の誤つた認定を前提として、本願発明は引用例に記載の技術事項と同等であつて、特許法二九条一項三号により特許を受けることができないとの誤つた結論に至つたものであるから、違法として取り消されなくてはならない。

請求の原因に対する認否

請求の原因一ないし三の事実は認める。同四2中、リウマチ因子が抗体(IgG抗体)のFc部分に結合することは知らない。もし原告主張のように、リウマチ因子が抗体のFc部分に特異的に結合すると仮定すれば、引用例の菌体粒子へのγ―グロブリンの結合はFab部分を介して行われていると認められることは争わない。

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